相続にあたって、プラスの財産については、遺産分割協議によって、共同相続人の間で自由に分けることが出来ます。では、

借金などマイナスの財産についても同じように分けることができるでしょうか?

相続人の間で借金を分けることは自由ですが、債権者には主張できません!

なんとか放棄

なんとか放棄する!
相続手続の中では、この【放棄】という言葉がよく登場します。相続放棄、相続分の放棄、遺産放棄、遺留分の放棄などなど。

どれも同じような意味合いに思えるかも知れませんが、大きな違いがあります。勘違いすると大変です。

なんとか放棄の種類

  • 相続放棄
    • プラスもマイナスも含む一切の相続財産を受け継がないとする裁判上の手続。
    • 誰にでも相続放棄の効果を主張できます。
  • 相続分の放棄
    • 一般には相続財産のプラスの部分を引き継がないとする、相続人の間での約束事
    • 遺産分割協議の中の一部分にすぎないので、遺産分割協議に参加しない債権者からすると知ったことではありません!つまり、相続財産のマイナスの部分には効果が及びません。
  • 遺留分の放棄
    • 遺留分という最低限認められた相続分についても、要らないとする裁判上の手続。相続開始前に行うもので、相続開始後には、上の相続分の放棄と同義になります。

なんとか放棄で、マイナスの相続財産・借金まで放棄出来るのは、相続放棄だけ

相続人の話し合いで、財産や借金を相続人の1人にまとめたから大丈夫!
遺産放棄しているから、借金とは関係ない!

このような認識で、相続放棄したつもりなのでしょうが、裁判所に相続放棄を申し立てない限り、相続放棄と同じ効果・効力はありません。遺産の放棄や相続分の放棄では、借金の相続から免れることは出来ません!

借金の遺産分割の効果

たとえば、兄と弟2人の遺産分割協議で、「兄が財産を多めにもらう代わりに借金は責任持って支払う。弟は財産について遠慮したから借金は支払わない」と合意すれば、兄弟の間での約束としては有効です。

しかし、借金・負債の相続に関しては、相続開始時に兄弟それぞれが法定相続分に従って相続したものとみなされるため、銀行など債権者には支払いを拒むことができません。債権者は弟に対しても父親の残した借金を(相続割合にしたがって)請求できるのです。

その請求に対して、「俺は関係ない!兄に請求してくれ!ここに遺産分割協議書がある!」といっても、その言い分は、残念ながら認められません。「そんなの関係ねぇ!」で完敗です。

つまり、借金の遺産分割協議・相続分の放棄・遺産の放棄は、

相続人の間の約束としては有効
債権者などの第三者との関係では無意味

相続人の間の約束として有効というのは、債権者からの請求を受けた弟が、兄に代わって返済すれば、弟は兄に対して返済した金額の請求ができる権利(求償権)が認められるという意味です。

また、遺産分割協議への参加は単純承認にあたる可能性大きいので、相続放棄を行う権利を失ってしまいます。

絶対に負債・借金を相続したくない場合には、相続放棄が必要です。

免責的債務引受契約

相続放棄が有効であることがわかっていても、さまざまな事情により相続放棄を選択できないケースもあります。そのようなケースで、借金を相続人の中の一部の人にまとめる場合には、銀行など債権者の承諾が必要です。

  • 借金をまぬがれる相続人
  • その借金を背負う相続人
  • それを承諾する債権者

これら当事者・関係者の契約が成立して初めて、【借金をまとめる】ことが有効になるのです。
つまり、遺産分割協議に債権者も参加してもらう、そんなイメージです。

なお、このような契約を、免責的債務引受契約といいます。

相続放棄・相続分の放棄・遺産の放棄のまとめ

  • 借金の遺産分割協議には要注意
  • 【相続分の放棄】【遺産の放棄】と【相続放棄】は、まったくちがうものです。
  • 「遺産とは何の関係もないから、借金も関係ない」こんな身内だけの約束では、借金からまぬがれることができません!
  • 遺産分割協議への参加は相続財産の処分。単純承認にあたる可能性大

確実に借金からまぬがれるには相続放棄が必要です!