故人が最後にお世話になった病院の費用、故人の財産から支払ってもいいのでしょうか?
故人が最後にお世話になった病院の費用は、故人の治療のための費用、もし病気が治って退院していたとしたら故人が支払います。
つまり、故人が支払うべきだった債務なので、相続財産となります。
マイナスの財産なので、相続債務と呼ぶことにします。
誰のお金で返済するか?
その相続債務を、相続人ご自身の財産によって返済することは、相続債務の返済ですが、この場合、
と言うと、これは単純承認には当たりません!
これらの行為は「相続人が相続財産で得をしよう!」という行為にはまったく当たらないからです。
裁判例でも
被相続人の相続債務の一部弁済行為は,自らの固有財産(中略)をもってしたものであるから,これが相続財産の一部を処分したことにあたらないことは明らかである。
とされています。
すなわち、相続人ご自身のお金で相続債務を返済することは、相続放棄の申し立てにおいて問題にはなりません。
配偶者には支払い義務があります。
相続放棄をする、した場合でも、奥さん、旦那さんは、病院代を支払わなくてはいけません。
夫婦の一方が日常の家事に関して第三者と法律行為をしたときは、他の一方は、これによって生じた債務について、連帯してその責任を負う。ただし、第三者に対し責任を負わない旨を予告した場合は、この限りでない。
民法第761条(日常の家事に関する債務の連帯責任)
この規定のとおり、日常の家事に関する債務については、相続人としてではなく、配偶者としてその責任を負います。また、病院代は日常の家事に含まれるとするのが裁判例です。
したがって、相続放棄をした(する)場合でも、配偶者は病院代を支払わなくてはいけません。もちろん、相続財産からではなく、自己の財産から支払わなくてはいけません。
保証人には当然、支払い義務があります。
入院の際に保証人になられた方も、相続放棄とは関係なく、保証人の責任として病院代の支払い義務があります。もちろん、保証人さんの個人の財産から。
奥さんが保証人になっていたら、どっちの立場で払うのって問題もありますが、とりあえず割愛します。
相続財産で返済したら?
では、この入院費・医療費を、相続財産から支出した場合は、どうなるのでしょうか?
入院費・医療費が、返済によって消滅することは、相続人が返済した時と同じことのはず!
ですが、その原資が相続財産、つまり故人の財産からの支出である場合、(プラスの)相続財産を処分したものとして、単純承認事由に当たる可能性があります。
つまり、相続放棄の手続上、問題になる可能性があるため、行わない方がいい、と考えられます。
まとめ
相続の際に、よく起こる入院費・病院代の支払いの疑問。
と、お考え下さい。
知らずに返済してしまったら?
相続が起こってバタバタしているときに、お世話になった病院から請求された病院代。
こんなことを知らずに、故人のお金で返済してしまうこともあるでしょう。
そんな時でも、相続放棄の手続の際、きちんと家庭裁判所へ事情を説明すれば、相続放棄が認められる可能性は十分にあります。
あきらめることはありません。お早めに専門家へご相談ください。