熟慮期間が過ぎてしまっても相続放棄が認められるか?

熟慮期間の考え方については、こちらのページで解説してますが、実際の事例では、どのような判断がなされているのでしょうか?

熟慮期間を経過した事案の裁判例

ここでは、実際の事例を紹介させていただきます。

遺産内容の重要な部分について、錯誤(勘違い)があった場合は、錯誤に陥っていることを認識した後、改めて熟慮期間内に、相続放棄の申立てができる。

【高松高裁 平成20.3.5】

字句・内容はわかりやすくデフォルメしていますが、この事案では、保証債務があったにも拘らず、債権者である農協が「債務はない」と説明をした事例で、被相続人の死亡から1年半、農協からの催促後2ヶ月に申し立てた相続放棄が認められました。

遺産分割協議への参加は、法定単純承認事由に該当するというべきであるが、相続人が多額の相続債務の存在を認識していれば当初から相続放棄の手続を採っていたものと考えられ、相続放棄の手続を採らなかったのが相続債務の不存在を誤信していたためであり・・・・

【大阪高裁 決定 平成10.2.9】

こちらは、多額の借金の存在を知らなかったと誤信していた場合に、熟慮期間経過後も相続放棄が認められる可能性があると判断しています。
さらに、遺産分割を行っていても、相続放棄が認められる余地について判断しており、相続人にとって非常に有利な判断とされています。

これら以外にも、熟慮期間経過後の相続放棄が認められているケースは多数あります。

熟慮期間についてのまとめ

熟慮期間の繰下げ(延長)について、最高裁が「相続財産が全く存在しないと信じたため」との条件をつけた判断を下しているため、「全く存在しないと信じた」ケースに限定されるとの説もあります。

また、「全く存在しないと信じた」ケースに限定されることなく、「一部の借金の存在を知っていても、全部・多額の借金の存在を知っていれば、当然相続放棄をしただろう」と思われるケースでも、熟慮期間を繰下げるべきとする説もあります。

このように、熟慮期間経過後の相続放棄は、ケースごとに具体的な事情を考慮した上での裁判所の判断になります。