未成年者が法律行為をするには、親権者が代理しなければなりません。

相続放棄の申し立ても、法律行為の一つ。未成年者だけで行うことは出来ません。

このようなケースでは、親権者が未成年者に代わって相続放棄を申し立てます。

全員で相続放棄なら問題なし!

例:お父さんが多額の借金を残して、亡くなったケース

奥さんや子供さん(未成年者とします)としては、借金を相続したくはありません。他に多くの資産がなければ相続放棄の申し立てが最善と思われます。

この場合、親権者であるお母さんと未成年のお子さんがそろって相続放棄をすることは、何の問題もありません。

お母さんは、ご自身の相続放棄と、お子さんの分の相続放棄を申し立てすることができます

共同相続人の一人が他の共同相続人の全部又は一部の者を後見している場合において、後見人が被後見人を代理してする相続の放棄は、必ずしも常に利益相反行為にあたるとはいえず、後見人がまずみずからの相続の放棄をしたのちに被後見人全員を代理してその相続の放棄をしたときはもとより、後見人みずからの相続の放棄と被後見人全員を代理してするその相続の放棄が同時にされたと認められるときもまた、その行為の客観的性質からみて、後見人と被後見人との間においても、被後見人相互間においても、利益相反行為になるとはいえないものと解するのが相当

参考判例  昭和53年2月24日 最高裁判所第二小法廷

この判例では、成年後見人と成年被後見人の事例ですが、全員で相続放棄することが利益相反にならないと判示されています。

結論が異なる場合は、注意が必要!

例:お父さんが多額の借金を残して、亡くなったケース。

事例は同じとしても、お母さんが相続放棄をしないで相続し、お子さんだけが相続放棄を申し立てるとします。そうすると、お子さんが相続放棄をすることで、お母さんの相続分が増える結果となります。(このように、お母さんとお子さんの利害が相反する状態を「利益相反」と言います。)

したがって、このようなケースでは、お母さんはお子さんを代理して、相続放棄を申し立てることは出来ません

このような場合には、裁判所に「特別代理人」と呼ばれる第三者を選任してもらい、その特別代理人に相続について判断をゆだねることになります。

上記のケースで仮に、相続分と呼べる資産がない・借金だけのケースであっても、「特別代理人」を選任する必要があります。このようなケースでは、あくまで形式的に判断するからです。

利益相反行為とは、行為の客観的性質上数人の子ら相互間に利害の対立を生ずるおそれのあるものを指称するのであって、その行為の結果現実にその子らの間に利害の対立を生ずるか否かは問わないものと解すべきであるところ、遺産分割の協議は、その行為の客観的性質上相続人相互間に利害の対立を生ずるおそれのある行為と認められるから、前記条項の適用上は、利益相反行為に該当するものといわなければならない。したがって、共同相続人中の数人の未成年者が、相続権を有しない一人の親権者の親権に服するときは、右未成年者らのうち当該親権者によつて代理される一人の者を除くその余の未成年者については、各別に選任された特別代理人がその各人を代理して遺産分割の協議に加わることを要する

参考判例  昭和49年7月22日 最高裁判所第一小法廷
特別代理人は言いなりではありません

「特別代理人」を選任してもらえたら、必ず相続放棄を申し立ててもらえる?

そんなことはありません。特別代理人の判断によりますので、特別代理人が「相続放棄をする理由がない」と判断すれば、相続放棄の申し立てはされません。