以前に書かせて頂いた記事【相続放棄 | 賃貸住宅はどうしたらいい?】の続きになります。

以前の記事でも解説していますが、一般的な賃貸借契約の連帯保証人には、その賃貸借契約自体を解除する権限はありません。

そのため、賃貸借契約の保証人だったために、相続放棄をしたのはいいけど、相続人の立場ではないため解除が出来なくて、家賃の滞納が続き高額になってしまい、その支払いにお困りのケースがあるようです。

このような場合に備えて、賃貸借契約に次のような特約が付されているケースがあります。 

借主から連帯保証人に対する委任
第◎条 借主は、連帯保証人に対し、次の各号のいずれかに該当した場合に限り、本契約の解除及び本物件の明け渡しに関する権限を委任するものとする。この場合において、借主は連帯保証人が行った行為に対して、一切の不服を申し出しないほか、貸主及び連帯保証人若しくは管理者に対し、損害賠償その他の請求をしない。

1.借主が、貸主への届出をせず所在不明のまま2ヶ月以上経過したとき。
2.借主が死亡し、相続人等が不明で、本契約の履行が困難な状況に陥ったとき。

このような特約があれば、一見、連帯保証人に解除権があるようにも思えます。しかし、貸主にとって非常に有利な特約(借主に不利)であり、その有効性が争われるケースがあります。

例えば、「家賃を1ヶ月滞納したら、勝手に中の荷物を捨てて、鍵を替えて、他の人に貸してもOK!」というような賃貸借契約は、認められません。

では、この連帯保証人へ解除権をあらかじめ付与する特約は無効なのでしょうか?

結論から申し上げると、「相続放棄をした(する)親族が、連帯保証人になっている」そんなケースでは、この特約は有効と考えられます。

実際に、この特約の有効性が争われた裁判では、以下のように判断されています。

大阪高判 平25・10・17
家賃保証会社に対して契約解除権、明渡しの代理権及び残置動産の処分権を付与することについては、かねて国土交通省から問題が指摘されていたところであるが、改訂後の本件旧契約書特約事項7項は、家賃保証会社以外の、通常、賃借人との間で一定の信頼関係があると考えられる個人の連帯保証人に対し、上記権限を付与したものであって、その目的は、個人の連帯保証人の賃料支払債務が過大になるのを防止するためであり、当該条項を賃借人が明確に認識した上で契約を締結したものであれば、当該条項が信義則に反して賃借人の利益を一方的に害するものであるということはできず、消費者契約法10条に該当するものとは解されない。

つまり、借主や家賃保証会社が、その有利な立場を利用して、自らに都合の良い契約を結ばせたのではなく、連帯保証人になってくれる身内の人に、出来るだけ迷惑をかけないでおこうと考える借主の意思によって契約がされたと考えられる場合には、無効とはならないと判断されています。

したがって、賃貸借契約に、このような特約がある場合には、相続放棄をした(する)相続人は、賃貸借契約の連帯保証人として、賃貸借契約を解除し、家賃の滞納をとめ、問題の解決が可能と考えられます。