こんばんは!神戸の司法書士の塚本です。よく頂く、タイトルのようなご質問。

葬儀費用を相続財産から支出することが、相続放棄で問題となる単純承認(相続放棄が出来なくなる)事由にあたりますか?って、質問と言うより確認でしょうか?

葬儀代以外にも、病院代の支払いや、賃貸借契約の解除など、相続が起こると何かと様々な手続が発生しますが、それらの手続が相続放棄のルール上、セーフなのかアウトなのかが気になるのはよく分かります。

しかし、それを判断するのはあくまでも裁判官!! 一介の司法書士が判断するのではありません。

電話などでの無料相談で「相続財産で葬儀代を払ってもいいんですよね?」と聞かれると、司法書士としては「そうとは限りませんよ!」って答えるしかありません。詳細な事案がわからないのに責任を持った回答なんて不可能です。

相続財産で葬儀代を払ってもいい!?

この「相続財産で葬儀代を払ってもいい」説の根拠は、これらの裁判例だと思われます。

葬儀は、人生最後の儀式として執り行われるものであり、社会的儀式として必要性が高いものである。そして、その時期を予想することは困難であり、葬儀を執り行うためには、必ず相当額の支出を伴うものである。これらの点からすれば、被相続人に相続財産があるときは、それをもって被相続人の葬儀費用に充当しても社会的見地から不当なものとはいえない。また、相続財産があるにもかかわらず、これを使用することが許されず、相続人らに資力がないため被相続人の葬儀を執り行うことができないとすれば、むしろ非常識な結果といわざるを得ないものである。
したがって、相続財産から葬儀費用を支出する行為は、法定単純承認たる「相続財産の処分」(民法921条1号)には当たらないというべきである。

裁判例1 平成14年7月3日 大阪高等裁判所

もっと古い判例では

葬式の費用を相続財産から支出することは道義上必然の所為であるから、民法第1024条第1号の「相続財産ノ処分」に該当しない。

裁判例2 昭和11年9月21日 東京控訴院

結論は明快、「必然」「あたりまえのこと」「相続財産の処分には当たらない」とされています。

やっぱりセーフやんって思われるでしょうが・・・

実務上は注意が必要なんです。

裁判例のとおり、相続財産から葬儀代を支払うことは、ほぼほぼOKなのですが・・・実務上は注意が必要と考えます。

裁判例1では(省略しておりますが)実際には「相続財産から支出した葬儀費用が社会的にみて不相当に高額でない限り」との条件が付されています。

また、このケースは、相続債務があることが分からないまま、葬儀費用、墓石などに支出したケースであり、はじめから相続放棄をするつもりで、相続財産から葬儀費用を支出する、タイトルにあるようなケースとは前提が異なっていたりします。

実際、当事務所が関与した相続財産から葬儀費用を支出した(してしまった)事案では、裁判所から、追加資料として、葬儀費用の領収書、それが入金されていた預金通帳のコピーなどの提出を求められるケースもあります。

つまり、相続財産から葬儀費用を支出した行為は、相続放棄を受理するか否かの審理の対象になるものと考えられます。

相続財産で葬儀代を払ってもいいんですよね?

通常のケースでは、相続財産から葬儀費用を支払うことが単純承認事由として問題になることは稀だと思います。

が、まるでフリーパスのように、何でもOKではないってことにご注意いただきたいのです。通夜振るまいはさておき、初七日法要、船をチャーターした散骨費用などなど、なんでもかんでも葬儀費用に含まれるなんて考えるとキケンです。

そして、相続放棄をされるケースでは、葬儀費用に限らず、他人の財産をあずかっている場合のように(実際に相続する立場ではありませんので自分のお金ではありません)、相続財産の支出、受領、処分に関わった場合には、それらの資料を大切に保管頂き、怪しまれるような行為をせず、無用なトラブルを防ぐよう注意して行動してください。