高齢の方であっても、しっかりとした判断能力をお持ちの方は、相続放棄をご自身の判断で申し立てることは可能です。当然です。
しかし、高齢の方の判断能力が鈍っている場合には、相続放棄の申し立てに問題があります。
もちろんこれらのことは、高齢の方に限ったことではありません。病気などで判断能力の低下が見受けられる場合には、「相続放棄の判断」が可能なのか問題に発展することがあります。
加齢や病気などで判断能力が著しく低下され、正常な法的判断ができない状態の方には、「成年後見人」という代理人を選任してもらい、法的手続などを代理してもらう制度があります。これらを「成年後見制度」といいます。
成年後見人等がいる場合
判断能力が低下されている方に、成年後見人等が選任されていれば、その成年後見人等が、本人に代わって相続放棄の申し立てを行います。
問題となるのは、成年後見人と判断能力が低下された方(成年被後見人といいます)が、同じ相続人の立場になった時です。
親族後見人と被後見人が共同相続人になった場合には、後見人と被後見人の利害が対立する「利益相反」の状態。未成年者とその親権者のケースと同じ考え方になります。
結論としては、双方が相続放棄をする場合には、後見人が被後見人を代理して相続放棄を申し立てることが可能です。
一方のみが相続放棄をする場合には、「成年後見監督人」または「特別代理人」が、被後見人に代わって相続について判断することになります。
成年後見人がいない場合
は、一般人に判断することはできません。成年後見制度でも、裁判所は、医師の診断・鑑定の結果に基づき判断します。また成年後見制度の利用は、強制されるものではないため、判断能力が衰えた方に成年後見人がいないことなど、よくあることなのです。
問題となるのは、本人の意思が不確かな状態で、周囲の方々が勝手に本人の意思を忖度し、相続放棄を申し立てることです。
相続放棄申述事件では、申立人の面談がある訳でもなく、書面に基づく審理です。そこで、周囲の関係者が、その判断能力が衰えた人になり替わり、なりすまし、相続放棄の申し立てを行うことは、難しいことではないでしょう。親族全員が相続放棄を申し立てざるを得ない状態の場合などでは、誰も利益を得るわけではなく、なんら悪意など無いのでしょう。
しかし、「他人になりすまして」の相続放棄の申し立ては、犯罪行為。
これが法律です。