- 故人の自動車を廃車にしてしまった。
- 孤独死だったので特殊清掃をお願いしてしまった。
- 病院代を故人の預金から払ってしまった。
- 故人が借りていたアパートを解約してしまった。
相続放棄が出来なくなるとされるこれらの行為(処分行為、単純承認事由)。これらの行為をしてしまったら、相続放棄はあきらめないといけないのでしょうか?
「してしまったこと」は、きちんと説明
当事務所にご相談、ご依頼頂く事案の中には、すでにこれらの行為を「してしまった」方がおられます。
実際、孤独死でご遺体がひどい状態になってしまえば、放っておくことができるでしょうか?ご遺体を受け取るのにその病院代を払わない。他人の土地(駐車場)に停めている故人の自動車を見てみぬふりなど、一般常識人として放っておくことは難しいこともあると思います。
困っている相手の要望に応じてしまった結果、相続放棄のルールを知らずに破ってしまった。
このような事情を抱えた方の相続放棄のご依頼のケースでは、これらやむを得ず「してしまった」事情をきちんと説明し、相続放棄の申し立てを行います。
相続放棄の結果を保証するつもりはありませんが、特に何か自らの利益を得るためにした行為でなければ、相続放棄は認められるべきだと考えますし、認められるケースも多いと感じます。
当事務所での解決事例を紹介します。(事案の特定にならないため、若干の修正等はございますのでご了承下さい。)
軽自動車を廃車してしまったケース
被相続人が軽自動車内で自死したケース。警察から相続人へ被相続人の死亡の連絡と、軽自動車の引き取りの要望があり、自死の現場となったその軽自動車には価値がないものと考え、その場で業者に引き取ってもらうことを選択、手続を進めました。
その後、廃車にしたことで解約となった自賠責保険料の解約返戻金があることを知り、手続上、その受領が必要とのことで、相続人さんの銀行口座で解約返戻金を受領してしまったのでした。
このケースでは、廃車の手続と自賠責保険の解約返戻金の受領が、処分行為、単純承認とみなされる可能性がありましたが、これらの事情を裁判所へきちんと説明し、結果、相続放棄は受理されました。
特殊清掃を依頼してしまったケース
警察からの連絡で、親族の孤独死を知らされた事案。死後相当の期間が経過していたため、特殊清掃が必要とのことで、緊急性から、二つ返事で清掃を依頼してしまった事案。
このようなケースでは、現場内にあった金品、預貯金通帳等も警察から引き渡されるようですが、それらも受け取ってしまったようです。(警察相手に、拒否するって難しいですね)
特殊清掃をすれば結果的に、故人の身の回りのものを処分してしまうことになり、単純承認事由にあたる可能性はありましたが、これらの事情を説明したところ、無事、相続放棄は受理されました。
預金を引き出してしまったケース・現金を使用してしまったケース
入院し、そこで最期を迎えられた場合など、ご家族がキャッシュカードを預かっているケースがあります。そこで最期の病院代の清算(12万円)に際して、院内に設置されているATMで故人の口座から出金し、支払ってしまった事案。
その他にも、アパートの片づけを業者に頼んだ際に、部屋内で発見された現金で、その清掃業者の支払い(約4万円)に充ててしまったケースなど。
故人のお金を、相続人が払うべきものに使ってしまえば、単純承認です。ですが、これらの事案も、きちんと事情を説明し、無事、相続放棄は受理されています。(当然、使用してしまった金額と相続債務との対比もあるのだろうと思います。)
アパートの片づけをしてしまったケース
アパートの大家さんからの要望に応じて、アパートを引き払ってしまったケース。宅内にあった家電や家財など、保管場所もないので破棄してしまったそうです。
故人の持ち物全部が、無価値とは言えませんので、結果的にはなんらかの財産的価値があるものを処分してしまったのですが、こちらのケースでも、これらの事実を隠すことなく、きちんと説明し、相続放棄は受理されています。
普通自動車を廃車にしてしまったケース
もともと調子の悪かった自動車らしいのですが、故人の死後、廃車を依頼してしまったケース。
こちらのケースでは、相続放棄の申し立て時に、廃車してしまった事実を裁判所へ事情説明したところ、自動車の登録識別情報等通知書(車検証のような書類で、抹消登録の事実がわかる書類)の追加提出を指示されました。
つまり、裁判所は、相続人が行った廃車の事実(財産処分の事実)を資料で確認した上で、相続放棄を認めてくれました。車の価値にもよるのだろうとは思います。
自分の利得のために「した」こと「する」こと
同じような行為でも、何かしら自己の利益のために「した」行為、これから「する」行為については、単純承認事由と見做され、相続放棄が認められないのも仕方ありません。
例えば「盛大な葬儀代も故人の財産で払ってもOKでしょ?」とか、「形見にROLEXもらってもいいでしょ?」「故人名義の自動車をこのままつかってもバレないでしょ?」などなど。
そんな質問に対し、裁判所でもない当事務所が、OKですとかNGですと判断することはできませんし、致しかねます。また、このような事情を隠し相続放棄を申し立てた場合、追加資料の提出を求められ、結果的に「単純承認事由に該当するから受理されない」との結果となっても不思議ではありません。
してしまったことは仕方ありませんが、まだしていない行為について判断を迷っているのであれば、できる限り相続放棄のルールを破らないように行動されることをおススメします。