相続放棄のコラム

いらない不動産を相続放棄で手放す?

最近よく「いらない不動産」の処理についての質問が寄せられます。

「いらない田舎の不動産なのに税金だけかかって・・・」
「いらない不動産を手放す方法はありませんか?」

ご質問の内容から、いらない不動産の処分について、楽観的な認識の方が多いように感じます。実は、いらない不動産の処分の問題は、今や社会問題。解決が困難な問題なのです。

まず、お寄せいただく質問で、一番多い勘違いは、これです。

いらない不動産は市や町に寄付したらいい!

この勘違いは非常に多いです。

いらない不動産=売れない不動産=市や町も要りません!

現金ならもちろん受け付けてもらえますが、市や町がいらない不動産の寄付を受け付ける義務なんてありません。寄付は受け付けられないことが大半でしょう。そもそも市や町は、そんな誰もいらない不動産に固定資産税を課税し、税収を得ているのです。

寄付を受けたら、税収は減るわ、管理コストがかかるわ、で大変です。

中には、寄付を受け付けてくれるケースもあるでしょうが、利用価値もなく、換価出来ない不動産の寄付は難しいと考えられます。

ですので、「いらない不動産は市や町に寄付する案」は否決とさせて頂きます。

ちなみに昔、私自身も相談者の要らない土地のことで、市に相談に行ったことがあります。地元、神戸の中央区の土地!
要らないって言われるとは思いもしませんでした。

隣地の方にお声掛けしてみるのも一つの方法でしょうが、あまり期待は出来ないでしょう。

所有権の放棄?

次のご質問は、「不動産の所有権放棄の登記の方法は・・・?」
質問の前にいろいろ調べられたのでしょう。この突っ込んだ質問は次の法律が根拠になります。

(無主物の帰属)民法第239条  
所有者のない動産は、所有の意思をもって占有することによって、その所有権を取得する。
2  所有者のない不動産は、国庫に帰属する。

このように所有者がいない、つまり所有者が所有権が放棄出来れば、国庫に帰属(国の財産になる)と法律で規定されています。

しかし私は、そんな登記はやったことありません!というよりも、実際には、そんな登記・方法はありません!

参考先例 昭和41年8月27日民事甲第1953号民事局長回答
ちなみにこの先例は、あるお寺が管理する土地に危険な崖が含まれていたので、その崖の土地の所有権を放棄しようと考え、法務局に問い合わせた結果です。

(略)その所有権を放棄し国に帰属せしめ、国の資力によって危険防止を計る事が最善であろうと思料した様な次第でありますので、かかる件に関し次の二点について御照会致します。
一、不動産(土地)所有権の放棄は、所有権者から一方的にできるか。
二、もし所有権放棄が可能であれば、その登記上の手続方法はどのようにするか。
(回答)標記の件については、左記のとおり回答いたします。
 第一項 所問の場合は、所有権の放棄はできない。
 第二項 前項により了知されたい。

不動産の所有者が、その所有権を一方的に放棄することはできない!
だからその登記の方法なんてない!

答えは明快。したがって、「所有権を放棄する案」も否決となりました。

いらない不動産は相続放棄で手放す!

さて、本題の相続放棄によるいらない不動産の処分法です。

不動産の所有者の相続人全員が相続放棄を行えば、不動産の所有者はいなくなります。
となると、上でご紹介した法律「所有者のない不動産は、国庫に帰属する。」状態になります。これは間違いありません。

ただし、相続人全員が相続放棄をし、認められたからといって、所有権のない不動産が自動的に国庫へ帰属する訳ではないのです。
不動産の所有者の名義は、依然として被相続人名義であり、国名義になる訳ではありません。

相続放棄の効果により、固定資産税の支払い義務はなくなりますが、相続放棄では免れることのできない責任があります。それが、相続財産の管理責任です。

民法第940条  
相続の放棄をした者は、その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産の管理を継続しなければならない。

つまり誰かがその不動産の管理を行う時点まで、相続放棄をした相続人が管理をしなければなりません。「しなければならない」=義務なんです。
管理責任のある相続人が管理を怠ると、損害賠償責任や刑事責任を問われる可能性があります。

つまり、相続放棄によって、いらない不動産の「名義」を手放すことは可能です。
しかし、相続放棄だけでは、相続財産の管理責任を免れることが出来ません。
すべての責任を手放すには、さらにもう一段階、必要なステップがあります。

結局、相続財産管理人

相続放棄をした相続人の管理責任は「誰かが相続財産の管理を始めることが出来るまで」の間です。

といっても、自分が相続放棄を行うケースで、他の相続人が相続を承認してくれることを期待するのは都合が良すぎます。
また、いらない不動産しかめぼしい資産がない方の相続において、被相続人の債権者が相続財産管理人を選任することを期待するのも無理があります。

そこで、そのようなケースでは、相続財産の管理責任を負う相続人は、相続財産管理人を選任してもらうよう裁判所へ申し立てを行い、相続財産の管理責任を引き継ぐことが出来ます。

つまり、相続放棄の申し立てと相続財産管理人の選任の申し立て、そこまでやって、やっと「いらない不動産」を手放すことが出来るのです。

しかし、相続財産管理人の選任には、避けて通れない予納金等のコストの問題(数十万円~100万円程度)が生じます。

結局、目先の固定資産税の負担と比べて高コストになる相続財産管理人の選任は、見送られるケースが多いようです。

蛇足?マメ知識? 共有持ち分なら放棄は可能です。

ちなみに所有権じゃなく不動産の共有持分なら放棄は可能なんです。「持分放棄」という登記が認められており、放棄された持分権は、他の共有者に帰属します。

方法は至って簡単、相手方に「持分放棄」の意思表示を行うだけ。実体法上はこれで不動産の共有持分放棄は成立しています。のちのちの手続のために、内容証明郵便で行うのがよいでしょう。

といっても、実体法上は権利が移転しても、手続法上は、勝手に名義が変わる訳でも、名義変更の登記が出来る訳ではありません。
相手方が登記に協力してくれない場合には、登記引取請求権に基づき、裁判で勝訴判決を得ることが必要です。

~絶対におススメしませんが~
兄弟などで、いらない不動産を共同相続するケース。法律上の持ち分どおりに登記する(法定相続登記)は、その相続人の一人から申請可能なんです。

そこで、どうにかしてご兄弟の住民票を入手すれば、勝手に相続登記が可能です。この段階では、ご兄弟といらない不動産を共有しています。この登記の完了後、直ちに上記の方法で持分放棄を行えば、ご自身だけは、いらない不動産の問題から逃げきることができてしまいます。

あまりにもひどいやり方で、問題の解決とは逆方向に進みかねないため、決しておススメは致しませんが、方法論・テクニックとしては一応、成立してしまいます。

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