司法書士がたずさわる不動産登記は、売買や相続などを原因として不動産の所有者を変更すること、すなわち所有権に関する登記が、おもな仕事になります。
そのほかにも、抵当権や賃借権など、不動産に関するさまざまな権利についても登記します。
これら所有権などの重要な権利について登記される事項は、自然人であれば【住所と氏名】、会社などの法人であれば【本店と商号】が登記されます。
つまり法務局は、不動産に関する権利を持っている人を、【住所と氏名】によって特定しているのです。
では、不動産に権利を持っている人の、住所や氏名が変わった場合は、どうするのでしょうか?
不動産の権利の登記は義務ではない。
住所・氏名が変わっても、「登記しなければならない」とする決まりはありません。
そもそも、不動産を購入した場合でも、登記する義務はありません。
つまり、不動産に関する権利の登記は義務ではありません。
所有者が不明の土地が増え、社会問題化していることから、令和3年、相続登記及び住所変更登記が義務化されることが決まりました。施行は令和6年度からの予定です。
なお、家を建てたりした場合に、構造や床面積など、不動産の物理的な状態を登記する「表示の登記」については、登記の義務があります。
住所変更登記が必要な理由
住所が変わったとしても登記の義務がないのに、「住所変更登記が必要です」という司法書士は、押し売りしているのか?といえばそうではありません。
さきほども説明したとおり、法務局では、不動産の所有者は、「住所と氏名」で特定されています。
不動産を所有されている方が、その不動産を売る・あげるなどの処分をし、登記の名義を変更する際には、法務局へ印鑑証明書を提出しなければなりません。
もし住所が、前の登記の際の住所と変わっていれば、法務局が把握している住所と氏名と、提出された印鑑証明書に記載された住所と氏名は一致しません。
そうすると、【人違い】として、その名義変更の登記は受け付けられない・却下されます。
そこで、売る・あげるなどの、名義変更登記の前提として、法務局が把握している登記記録から、印鑑証明書が発行される現在の住所へ変更した旨の登記、つまり、住所変更登記が必要になるのです。
言い換えれば、売る・あげる予定のない方は、住所変更登記をする必要はないのかもしれません。(亡くなった後、つまり相続登記が大変になりますが、)
住所変更登記
実際の住所変更登記は、登記記録上の住所から、現在の住所(印鑑証明書に記載された)までの住所の変遷がわかる資料、つまり、住民票や戸籍の附票によって(同一人物であることを)証明する必要があります。
住所変更が1回であれば、その証明は比較的簡単なのですが、
- 住所変更が複数回ある場合
- 不動産の取得時から長期間経過している場合
- 本籍地の移動・転籍されている場合
などのケースでは、複数の書面が必要となったり、住民票等の記録が「保管期間の経過」により、破棄されているなど、住所変遷の証明に手間・費用が掛かってしまうことになります。
令和元年の法改正により、住民票、戸籍の附票などの保管期間が、それまでの5年間から150年に延長されました。住所変更の記録の証明ができない!という事態は回避されました。
住所変更登記の義務化と合わせ、不動産登記の信頼性が向上したと思います。
なかには、戸籍や住民票を多数取得してみたけれど、住民票などの証明書では証明できないケースもあり、この場合には、権利証・納税通知書などの書類が必要になるため、さらに費用・時間が必要になります。
わたしども司法書士は、依頼された登記が却下されるなどの事態を未然に防ぐ役割も担っています。
そのため、売買など不動産の名義を変更するケースでは、住所変更登記が必要なのかどうか、前もって登記記録・印鑑証明書を確認させていただけるようお願いしております。