こんばんは!司法書士の塚本です。今回ご紹介するご依頼は、

その昔、お父さんが農地を売って、その仮登記がついたまま、何十年もそのままになっているので、その仮登記を消して欲しい!

ってお話しです。

農地法の許可

田んぼ

前提として、農地(田んぼ、畑など)を売買するには、農地法の許可が必要。

農地法の許可がないままの売買は無効で、売買による名義変更登記の際には、農地法の許可証を添付する必要があります。

とは言え、申請してすぐにその場で農地法の許可が出る訳ではありませんので、農地の売買は以下のような流れが一般的です。

  1. 農地法の許可が得られることを条件として売買
  2. 農地法の許可を得られるまでは「条件付所有権移転仮登記(条件 農地法第3条の許可)」
  3. 農地法の許可が得られれば、仮登記を本登記

今回のケースは、➋で止まったまま、➌に至っていないまま何十年も経っている、そんな状況でした。

登記申請は共同申請が原則

不動産登記は、権利を得る人と権利を失う人が共同して申請するのが原則。

したがって、今回も買主さんに仮登記を抹消したい旨の連絡をして、登記への協力を仰いて、共同申請で抹消すればいいのですが、登記記録(登記簿謄本)に記載された住所に郵便を送っても「あて所に尋ねあたりません」という内容で返送される、行方不明状態。

相手方が行方不明だと、登記の共同申請ができません。となると残された方法は、裁判手続きを利用して、相手方の協力がないまま仮登記を抹消する方法にならざるを得ません。

相手方が行方不明なら公示送達

相手方(被告)が行方不明で裁判を起こすには、裁判所に「相手方が行方不明でどうしようもないんです!」ということを説明、証明し、裁判所に「仕方ないなぁ」と思ってもらわなくてはいけません。

今回も、登記記録上の住所地に相手方が住んでいないことを証明し(現地調査(聞き込み)、住民登録の調査等)、公示送達によって裁判を開始することになりました。

請求の趣旨・原因日付

では、裁判をするとして、どのような理由づけで裁判に勝つのかというと、今回のケースは「許可申請協力請求権」の時効消滅の主張です。

許可申請協力請求権が時効で消滅

農地法の許可申請は、売主さんと買主さんが協力して申請します。

言い換えると、買主さんは売主さんに農地法の許可に協力してもらう権利をもっていますし、売主は農地法の許可申請に協力する義務があります。その買主さんの権利を「許可申請協力請求権」といいます。

この「許可申請協力請求権」は、債権の一種なので、貸したお金を返してもらえる権利などと同じで、長い期間、権利を使わないままで放っておくと、消滅してしまいます。消滅時効という制度です。

今回のケースは、農地の売買から30年も経過しているにもかかわらず、買主さんから許可申請協力請求権の行使がないままだったので、許可申請協力請求権が時効で消滅した!との主張によって、仮登記を抹消しようと思います。

仮登記の条件が成就しないことが確定

ところで、許可申請協力請求権が時効によって消滅したことと、条件付所有権移転仮登記が抹消されることは、同じようで違う話なんです。仮登記を抹消するための理屈は、

  1. 許可申請協力請求権が時効で消滅したから
  2. 農地法の許可が得られないことが確定する、となると
  3. 仮登記の条件が成就しないことが確定するので
  4. 仮登記は存在する意味がなくなる

ので、仮登記を抹消しましょうって論法になります。

いつ仮登記は消えたのか?

ところで、裁判で相手方に求めるのは、「平成○年○月○日、▲▲▲▲を原因として、抹消登記手続をせよ!」と命令する判決で、登記の際には、この「○」の日付と、「▲」の理由・原因の部分が重要で、その部分が誤り、不確定だと、登記が出来ないことも考えられます。

仮に農地の条件付きの売買があった日を平成3年3月3日とすると、上記の理由付けに対応する日は、以下のようになります。

  1. 許可申請協力請求権が時効で消滅

    時効の効果により遡及して平成3年3月3日に消滅したことになります。

  2. 農地法の許可が得られないことが確定

    売買の日から10年の消滅時効期間を経過した平成13年3月3日となります。(厳密には翌4日)

  3. 仮登記の条件が成就しないことが確定

    ➋と同じく平成13年3月3日となります。(厳密には翌4日)

したがって、裁判で求める判決は、「平成13年3月4日、条件不成就を原因として、抹消登記手続をせよ!」となるのが正解(のはず)です。

余談ですが・・・

と、思いながら訴状等を作成し、裁判所へ提出したところ、第1回口頭弁論期日の直前に、

「登記原因日付は、これで(10年経過した日)あっていますか?」

とのツッコミがありまして・・・

あわてて再度、文献等を調べ、管轄法務局にも確認し、当職の説で問題なく登記が受理されることが確認でき、裁判所の方も、安心して判決を書いてもらえる段取りになりました。

実際、裁判所が出した判決であっても、法務局で登記に使えないってことはしばしばあるものです。(弁護士さんも登記に詳しいとは限りませんので!)

登記関係の訴訟の際には、最終的に登記を担当する司法書士に事前に相談してもらった方がいいのになぁとつくづく思います。