神戸の司法書士の塚本です。今回は、久しぶりに過払い金返還請求手続について。
過払い金返還請求 対 アコム
先日、無事、依頼を完了した過払い請求の事案。相手はアコムさん。
取引の開始は、平成18年7月4日、取引の終了は、平成24年。時効寸前(利息がたっぷり)の事案。
なおかつ、期限の利益喪失条項下での制限超過利息の支払いについて任意性を否定した最高裁判決を踏まえ、期限の利益喪失約款を削除した後に開始した取引。
つまり、みなし弁済が成立する?って事案。
みなし弁済が成立するってことは、過払い金は発生しないってことです。ちなみに、期限の利益喪失条項下での制限超過利息の支払いについて任意性を否定した最高裁判例はこちらです。
期限の利益喪失特約の下で,債務者が,利息として,利息の制限額を超える額の金銭を支払った場合には,上記のような誤解が生じなかったといえるような特段の事情のない限り,債務者が自己の自由な意思によって制限超過部分を支払ったものということはできないと解するのが相当
平成18年1月13日 最高裁第二小法廷 判決
この判決によって、過払い金ブームが訪れたわけで、それじゃマズいってことで、多くの消費者金融が対策として「期限の利益喪失約款の削除&変更」をしていったわけです。
本件では、みなし弁済の成立の可否を争うわけですから、ガチンコです。仮に負ければ過払い金はもちろん0円。相手方からは、大量の証拠が提出されました。証拠の大半はアコムさんが勝訴した判決文のコピー。
判決文の中身を見てみると、争点はみなし弁済の成立に関する「任意性要件」と「書面要件」。アコムさん勝訴の判決だから当然ですが、ことごとく借主側の主張が排斥されています。
期限の利益喪失約款の削除?
ちなみにアコムさんが上記の最高裁判決を受けて、期限の利益喪失約款を削除?したのは、判決から5か月後の平成18年6月のようです。本件取引の契約書では、期限の利益喪失約款は削除?されています。ちなみに、利率は、年25%と利息制限法は超過しております。
とはいえ、期限の利益喪失条項が完全になくなったかと言えば、そういうわけでもなく、AC会員規約第11条に以下のような期限の利益の喪失条項が存在します。
1.(省略)
2.会員が次のいずれかの事由に該当したときは、アコムの請求により、本規約に基づく債務について期限の利益を失い、残債務全額をただちに支払うものとします。
(1)(2)(省略)
(3)本規約等の義務に違反し、その違反が本規約等の重大な違反となるとき。
(4)その他会員の信用状態が著しく悪化したとき。
争点は支払いの任意性?書面要件?
まあ、お金を貸す側としては、なにかしらの理由で一括返済を請求できないとマズイので、上記のような期限の利益喪失条項が残っているのでしょう。まあ、明確に「利息制限法を超える利息の支払いを怠っても期限の利益は喪失しません。」とは書けないのでしょうね。
まあ、当方の主張としては、これらのあいまいな条項によって、実質的に利息制限法超過利率の支払を強制されているので、みなし弁済は成立しない!との主張です。
ちなみに、すべてアコムの自社ATMでの貸付、返済だったので、17条書面、18条書面の記載内容、書面交付の有無等については、特段争わず。
任意性要件の一本勝負!です。
果たしてその判断は?
結果は、和解決着です。
双方ガチンコだったのですが、控訴など解決が長引くより早期解決した方がよいでしょうって、裁判官の提案があり、双方同意したので、裁判官の心証開示の下で和解となりました。
ちなみに担当裁判官の心証は、「任意性要件を充足しないため、みなし弁済は成立しない!」とのことでした。
提訴から1年がかりの事案、関係者の皆様、お疲れ様でした。
レアケースですが・・・
今回ご紹介した事案は、期限の利益喪失条項が削除、改訂された平成18年から、その後みなし弁済規定が廃止される平成20年までの2年足らずの間に取引を開始した割とレアな事案です。
それより少し前に取引を開始していれば、最高裁判例によってみなし弁済の成立が否定されますし、平成20年の貸金業法改正後に取引を開始していれば、そもそも利息制限法を超える利率の取引ではなく、過払い金の問題とはなりません。
その間に開始した事案は、件数としてはかなり限られるかと思います。が、そんな方々のご参考になれば幸いです。