不動産を所有されていた方が亡くなったら
「名義変更は、死亡後◎ヵ月以内に行わなくてはならない。」

◎に入る数字はいくつでしょうか?実は、このような法律・規則はありません。

追記!相続登記は義務化されました!

2024年4月1日以降は相続登記が義務化され、相続で不動産取得を知った日から3年以内に相続登記を申請しなければならないことになりました。

つまり、いつまでも故人の名義のままで構わないのです。相続人の誰かが固定資産税さえ支払っていれば、何のお咎めもありません。そのため、相続不動産の名義変更(相続登記と呼ばれます)を先延ばしされる方も少なくありません。

本稿では、「相続登記は◎年以内に行わなければならない。」そんな法律があった方が良かったと思われる「相続登記を先延ばしして失敗した事例」のご紹介。もちろん当事務所で実際に遭遇した事案(守秘義務のため多少のデフォルメ有)です。

ちなみにあくまで個人的な考えですが、そんな法律ができるなら、その期限は1~3年が妥当と考えます。

事例1 謎の相続人現る

父・母・子(A)・子(B)のご家族で、父がお亡くなりになり、父名義の不動産がある。そんなもっとも典型的な相続登記のパターン。

  • 順番的にはお母さんが亡くなるため、この際お子様名義にされるのが合理的と考える方
  • 父と母の思い出の詰まった家だから母名義にと考える方
  • 何で兄貴だけが相続するねん!と反発する弟

などなど、どの案・主張も間違いではありません。結局、遺産の分け方が調わないまま、お母さんが亡くなりました。

お子様から相続登記のご依頼を受け、相続人調査を行うと、お母様の婚姻前の戸籍、つまり、母方の祖父の戸籍にお母様のお名前が2か所に記載され、いずれもバツ印がついています。お母様はお父様との結婚が初婚ではなかったのです。戸籍の1個目のバツ印は初婚の相手先への転出の記載です。その転出先の戸籍も必要になるため取得しますが、お母様にはお子様がいらっしゃいました。つまり、ご依頼人のお兄様(C)がおられることが判明したのです。

こうなると、今回のお父様名義の不動産については、母4分の2、子(A)4分の1、子(B)4分の1の相続が起こったあと、その母の4分の2の持ち分について、お子様A・B・Cの3名が相続することになります。

つまり、お父様名義の不動産の相続手続に、子(C)の協力が必要なのです。AさんBさんは当然そのような事実を知らず、ショックを隠せないご様子。しかし、手続上必要なため、Cさんに連絡を取ってみたところ、相続分に相当する金銭の要求。結局、要求どおりの金額を借り入れし、支払うことで協力を得られ、何とか不動産を相続するこが出来ました。

お母様の生前に、ご家族3人で話し合いをまとめ、速やかにお子様名義にしておけば、何の問題もなかった事案でした。

ご家族で話し合った結果、お母様名義にされていても同様の問題は起こりますが、ご相談の中で未然に防ぐことも出来たかも知れません。

 

また、隠されていた・知らなかったご兄弟が、必ずしも金銭等の要求をされる訳ではありませんが、法律上は相続人であり、相続分の要求は不当な主張ではありません。

このケースのように、相続が起こり、その相続の手続が終わらない間に相続が起こることを「数次相続(すうじそうぞく)」といいます。
相続登記の先延ばしが大きな問題に発展する元凶のひとつは、この数次相続です。

事例2 高齢の方が相続人になるケースの罠

次のケースは、お子様のおられない夫婦の夫が亡くなり、妻と夫の母が相続人になったケース。ちなみに、夫の父は、先に他界しておられます。

このケースでは、妻(配偶者)相続人が3分の2、夫の母が3分の1の相続分をお持ちです。

  • 順番では次に逝くのはお義母さん!私名義にするのが当然でしょ!
  • ◎◎家代々の土地を、よそ者のあなた名義にはできません!

そんな女の闘いがあったかどうかは分かりませんが、結局、お義母さんが亡くなってのご依頼。ここまでは事例1と同じよくある数次相続、相続人が代わる・増えるの問題です。

ただし、その増え方が半端ではありませんでした。お義母さんがある方の養子に入られていたのです。調べてみるとその養親の方には養子が10人以上。

民法第809条
養子は、縁組の日から、養親の嫡出子の身分を取得する。

つまり、養子も実子と同じ扱い。養子全員が兄弟姉妹になり、実の兄弟姉妹と同じ相続関係になります。

戸籍の調査だけで3ヵ月と実費5万円以上を要しました。調査の結果は、ご存命だった兄弟姉妹やその代襲相続人の計10名。

年配の方が相続人になると稀にある、相続人が大量発生して困るパターンです。年配の方の場合、実の兄弟の数が多いのと、養子縁組が現代よりも広く活用されていたことに起因する問題です。

事例2-2 高齢者が相続人のケースでのもうひとつの罠

この事例には、まだ続きがあります。やっとの思いで相続人の調査を完了し、各相続人へ相続手続きのお知らせをした結果、相続人の中に重度の認知症の方がおられることが判明しました。

認知症の程度によりますが、遺産分割は重要な法律上の手続。十分な判断の能力のない方が遺産分割協議に参加することは出来ません。そのようなケースは成年後見人が判断能力の低下した方に代わって遺産分割協議へ参加すべきなのです。

結局、遺産分割協議が出来ませんでした。その方に成年後見制度を利用される予定がなく、事件は塩漬け状態。以来何年も相続登記は完了しておりません。

このように、ご年配の方が相続人になるケースでは、相続人の判断能力の低下の問題(遺産分割協議ができない)、相続人が著しく増える問題が起こりやすくなります。
ご依頼頂いた事件の中には、相続人の調査の最中(1.5か月)に、別の相続が起こってしまったケースもあります。

ご年配の方が相続人になるケースでは、相続登記の先延ばしは厳禁です。

多数決では済まないのです。

想像してみてください、もし10人兄弟に生まれていたら、お正月は大変でしょう。それはもちろん、甥っ子・姪っ子のお年玉。
兄弟姉妹の相続では場合によって、その甥っ子・姪っ子が相続人になるのです。下手するとラグビーの試合が出来るぐらいの人数です。多数決でよければ協議もまとまるのでしょうが、全会一致、一人でも反対するとまとまらないのが遺産分割協議。本来は遺言など相続の事前対策が重要です。

事例3 相続放棄が絡んでくると・・・

この事例も、問題の元凶は数次相続。共同相続人の中に経済状態が良くない方がおられ、その方のお子さんが相続放棄をしたことによって、大変な事態に発展してしまった事案です。

お爺さん名義の不動産、お婆さんは先に他界しており、お爺さんの子供3人(A・B・C)が相続人でしたが、Aさんがお爺さんの後を追うようにお亡くなりになってしまいました。急な不幸が重なり、お爺さん名義の不動産については、遺産分割協議がまとまる間もありませんでした。

ここまではよくある、通常の数次相続(再転相続)の事案です。こんな場合は、亡くなった相続人(Aさん)の相続人である、奥さん、お子さんがAさんに代わってお爺さんの遺産分割協議に参加すればいいのです。

ところが、Aさんの奥さんやお子さんが、Aさんの相続放棄を申し立てたのです。理由はもちろん、その亡くなった相続人Aさんに多額の借金があったから。

そうすると、Aさんのお子さん・奥さんが相続放棄をしたことによって、Aさんの相続人は、BさんとCさんになります。

つまりこの時点で、BさんとCさんはお爺さんの相続人の立場とAさんの相続人の立場、2つの相続人の立場になっているのです。
すなわち、Aさんの相続人が行った相続放棄によって、お爺さんの財産とAさんの借金が混ざってしまい、分けられなくなってしまったのです。

もちろん、BさんもCさんもAさんの借金を相続したくはありません。しかし、先祖代々のお爺さん名義の不動産は相続したいのです。

BさんCさんが、Aさんの相続について相続放棄を申し立てれば、Aさんの借金の相続の問題は終了です。しかしそうすると、お爺さんの相続に関してAさんの立場を持つ参加者が居なくなってしまいます。

もし、BさんCさんが、Aさんの相続について相続放棄を申し立てれば、相続人全員が相続放棄を申し立てたことになり、相続人がいなくなります。このように相続人がいなくなるケースを「相続人不存在」と言い、この事例では、亡くなったAさんについて、相続財産管理人という立場の者を裁判所で選任してもらう必要が生じるのです。

これ以降の手続は、相続人の選択によって結果はそれぞれですが、相続財産管理人の選任はコストの面で負担が大きく、借金を引き継ぐのも困難な選択です。

相続登記の先延ばしに相続放棄が絡んでくると、最悪、財産の相続を諦めざるを得ない事態に発展します。

今回は相続登記の先延ばしによって、失敗した事例を3つ、ご紹介しました。

「先延ばしをしたくてしてるんじゃない!」とお叱りを頂戴しそうですが、とにかく早めの手続が、重大なトラブルを未然に防ぎ、結果的に相続手続きのコストを抑えることは間違いありません。