神戸の司法書士の塚本です。

先日、遺産分割協議書のよくあるミスなんて記事を書いておきながら、自分でうっかりやらかしそうになったお話しです。

不動産の所有者がお亡くなりになったら、名義を変えなくてはいけません。(現状、義務ではありませんが義務化の話もちらほらあります。)

相続人が1人であれば、その方が引き継ぐのですが、相続人が2人以上いる場合は、遺産分割協議を行うことが一般的。

そこで書くのが「遺産分割協議書」です。

で、書かなあかんか?

つまり、話し合いの結果を紙に書いて残さなくてはいけないのか?
書面化しておかなければ話し合いは無効か?

と言われれば、そうではありません。話し合いは有効です。

ただ、話し合いの結果がどのような内容であったかが、他の人にはわからないってことです。

物権変動の過程を忠実に・・・

不動産の名義人だったお父さんが亡くなり、妻(お母さん)とお子さん1人が相続人。こんなシンプルなケースで考えてみます。

ケース1 話し合いは済んでいる

相続人であるお母さんとお子さんが話し合いの結果、お父さんの不動産をお子さんが引き継ぐと決めたとします。

その話し合いの結果、お父さん名義の不動産の所有権はお子さんへ直接移転します。

が、その相続登記手続をしない間にお母さんも亡くなってしまった。

ケース2 話し合いが済んでいない

で、同じ家族構成の下で、お父さんが亡くなった後、遺産分割の話し合いをしない間に、お母さんも亡くなってしまった。
こちらのケースでは、お父さんの所有権は、半分がお母さんへ、もう半分がお子さんへ。その後、お母さんの持分が、お子さんへ移転することになります。

何がちがうの?

ケース1と2、結局、お子さんの名義になるんだから、一緒でしょ?て思いますが、ケース1では、遺産分割協議が済んでおり、ケース2では遺産分割協議が済んでいません。

What?だから何?

はい!登記の費用が変わるんです。
登録免許税が1.5倍に。司法書士のギャラは?2倍?(かどうかは事務所によります。)

つまり、お父さんの遺産分けの話し合いのタイミングによって、登記の費用が変わるってことです。

で、これは、物権変動の過程を忠実に・・・っていう司法書士の念仏のようなことに重きを置いた場合の結果です。

実際には、ケース2でも、お父さんの権利の半分を引き継いだお子さんと、お父さんの権利の半分を引き継いだお母さんの権利を全部引き継いだお子さん(※同一人物ですよ)が話し合いをして、お子さん名義にしようっていう遺産分割協議書を添付すれば、ケース1と同様の結果にすることが出来たんです。

平成26年までは!

同一人物が複数の立場に立つことってありますが(私も司法書士兼行政書士だったり)、この一人で遺産分割協議はいくら話し合ったとしても、この一人のお子さん以外に権利を取得することはありませんよね?というわけで結果が変わらない話し合いは出来ませんよってことになりました。(東京高裁平成26年9月30日判決)

ところで冒頭、遺産分割協議って書面にしなくてもOK!有効!って言ってましたよね?

じゃあ、ケース1で遺産分割協議書を作ってなかったら、どうやって手続をするの?ってことですが・・・

あとづけの遺産分割協議証明書

遺産分割協議証明書

 

平成20年2⽉2⽇、お父さんの死亡によって開始した相続における共同相続⼈お母さん及びお子さんが平成25年5⽉5⽇に⾏った遺産分割協議の結果、お子さんがお父さんの遺産に属する後記不動産を単独取得したことを証明する。

 

平成29年1⽉1⽇

 

相続⼈兼相続⼈お母さんの相続⼈  お子さん ㊞


お母さんが死ぬまでに私がもらうって話し合いがあったんですって書面です。

もちろん、口約束なので、そんな約束があったのかはわかりません!

ですが、このような形式の書面を添付して登記を出されたら、そんな約束があったのであろうとの取り扱いにするってことになりました。(平成28年3月2日付法務省民二第154号)数百円の電車賃のために、「あんた、今日は5歳な!」っていう世の中ですが、性善説で大丈夫でしょうか?

あ・く・ま・で・も・け・い・し・き!が大事なんですね~

「お母ちゃん、この家、私がもらってええん?」
「そやな、私のが先に逝くもんなぁ」

こんな他愛のない会話でも、見方によっては有効な遺産分割協議でしょうから、一旦は平成26年に禁止になった、一人芝居?独り舞台?のような遺産分割協議書に代わって、このあとづけの遺産分割協議証明書が活躍するのでしょうか?

ともあれ司法書士である私としては、
「遺産分けの話し合いが済んでいたら、書面が無くても、登記費用が安くなります、話し合いが済んでなければ、1.5倍になりますよ」って、ご案内はさせて頂きま~す!

というわけで、このコロコロと変わった結果を勘違いしてミス(未遂)しそうになりましたが・・・際どくセーフでした。