こんばんは!神戸の司法書士の塚本です。今日の事件は、

相続した土地に昔の抵当権が残ったまま。どうにかして下さい!

ってご依頼のお話しです。(守秘義務の関係上、一部デフォルメがありますのでご了承ください。)

休眠担保権とは

そもそも「抵当権」とは、お金を貸したけど、返してくれなかったら、その不動産を競売して返してもらうためのお金を貸した人の権利で、もちろん現在でも、住宅ローンなどでよく利用されています。

その抵当権の登記は、借りたお金を返したからといって、勝手に消えるものではありません。抵当権を設定したときと同様に、法務局へ抹消登記を申請しなければなりません。

休眠担保権、借用書

抹消登記を申請しないかぎり抵当権は消えませんので、ほったらかしにしておくと、何十年間もず~と残ったままになってしまいます。

完済したのかどうかもわからず、長年にわたって消えないまま残っている(眠っている)抵当権などを「休眠担保権」といいます。

休眠担保権の抹消

住宅ローンを完済すると銀行が抵当権を消すための書類を交付(返却)してくれます。ところが、抹消登記を面倒くさいからって後回しにすると、その書類を紛失してしまうこともあります。

そんなときに相続が起こったりすると、実際には返済したのか、返済していないのか、わからない状況になって、「まあいいや」なんてことになって長年放っておくと、今回のような事件になってしまうんです。

前置きが長くなりましたが、今回ご依頼頂いた「消してしまいたい抵当権」は、昭和2年に設定されたもの。

ちなみにその抵当権の債権額(借金の額)は1,000円で、利息は0%、最終の返済期は昭和18年9月で、貸した人も借りた人も当然ながら生存しておらず。その際の事情など、知る由もありません。

当然、借りたお金を返済した際の証拠、抵当権を消すための書類など、そんなものが残っているはずもなく、今回のケースでは、裁判によって「消してもいいよ」との判決を得て、抵当権を抹消するほかありませんでした。

抵当権者が行方不明なら・・

このような古い、昔の抵当権で、お金を貸した人の行方が調べようがないときには、債権額や利息、損害金を供託することで、抵当権を抹消できる場合もあります。

抵当権者(相続人)を探します!

抵当権を抹消するためには、お金を貸した人(抵当権者)の協力が必要。

とは言え、100年近く前にお金を貸した方が生存しているはずもなく、戸籍等で調査し、抵当権者の相続人を調査し、相続人を相手に裁判をします。

またまた、今回の事件では、もともとの抵当権者が3名も存在し、その相続人を調査すること3ヵ月、判明した相続人は56名。(自己最多更新です。)その56名を相手に裁判を起こしました。

相続人調査

相続人の調査、戸籍の収集は、古い、読みにくい、古文書(戸籍)を読み取り、相続人を探し出し、またその相続人の戸籍を郵便で役所へ請求する、地道な、地味な作業の繰り返し。

費やした期間は、約3ヵ月。役所へ支払う戸籍代と郵便代だけで約20万円掛かりました。早めの手続なら必要なかった経費です。

裁判の結果は?

ようやく相続人も確定し、裁判を起こすにあたり、相続人の方には今回の裁判について簡単なご案内文、説明文を発送しました。

が、まあ、訴えられて気持ちが良い人はいない訳で「なんのこっちゃ」とのクレームも頂いたりします。とは言え、なかなか説明してもご理解が難しい訳で、結局のところ、「裁判所から訴状が届くので、反論があるのであれば、お近くの弁護士なり司法書士にご相談ください」って、説明するしかありません。

そんなこんなで、ようやく迎えた裁判の期日。

抹消登記請求事件・裁判所イメージ

相手方56名は、誰一人出廷せず、答弁書も提出されず、当方の主張が認められ、裁判はあっけなく終了。

あとは、判決の確定を待って、法務局へ抹消登記を申請し、依頼完了となります。

休眠担保権の抹消が流行る?

今回ご紹介した休眠担保権の抹消のための裁判手続。供託による方法もあります。そもそも長年、放っておいたもの。このまま、放っておいてもいいんじゃない?と考えられる方もおられます。

確かに、売却などの予定がないのであれば、昔の抵当権が登記されたままでも、実害はありません。

ただ、令和5年に創設される相続土地国庫帰属法によって、相続した土地を手放すためには、昔々の抵当権がついてままではダメ。事前に抹消登記が必要なので、今後、休眠担保権の抹消手続きが流行るかも知れません。

相続登記や、休眠担保権の抹消、相続土地国庫帰属法の申請など、不動産の登記、裁判などはお気軽にお問い合わせください。