成年後見制度の利用に関するご質問。

一番多いのが、「私が成年後見人になれますか?」というもの。

ご本人のことを、よく理解されているご家族が、成年後見人になられるのは望ましいこと。ただ、裁判所は必ずしも、候補者・申立人・親族後見人を選任するとは限りません。

あくまで「候補者」として申し立て

成年後見制度の利用にあたっては、申し立てる人が成年後見人の「候補者」を選ぶことが出来ます。実際の申立書の候補者の欄は以下のようになっています。

成年後見人。親族がなれるケースとなれないケース


候補者についての申し立てパターンとしては3つ

  1. 裁判所へおまかせ
  2. 申立人本人
  3. 申立人以外の親族・お知り合い

2・3ともに候補者を立てて申し立てることも可能。(親族がダメなら知り合いの司法書士で!という感じ)

このように候補者を立てた・推薦したとしても、あくまでも裁判所の判断。ご希望が通るとは限りません。

誰が成年後見人に選任されても、不服の申立ては出来ませんし、後見制度の利用自体を中止する(取り下げる)ことも実質出来ません。

この点が成年後見制度の利用しづらい点の一つです。

候補者選任の判断基準

裁判所が候補者以外の後見人を選任する場合の基準は、以下のように発表されています。

  1. 親族間に意見の対立がある場合
  2. 流動資産の額や種類が多い場合
  3. 不動産の売買や生命保険金の受領など,申立ての動機となった課題が重大な法律行為である場合
  4. 遺産分割協議など後見人等と本人との間で利益相反する行為について後見監督人等に本人の代理をしてもらう必要がある場合
  5. 後見人等候補者と本人との間に高額な貸借や立替金があり,その清算について本人の利益を特に保護する必要がある場合
  6. 従前,本人との関係が疎遠であった場合
  7. 賃料収入など,年によっては大きな変動が予想される財産を保有するため,定期的な収入状況を確認する必要がある場合
  8. 後見人等候補者と本人との生活費等が十分に分離されていない場合
  9. 申立時に提出された財産目録や収支状況報告書の記載が十分でないなどから,今後の後見人等としての適正な事務遂行が難しいと思われる場合
  10. 後見人等候補者が後見事務に自信がなかったり,相談できる者を希望したりした場合
  11. 後見人等候補者が自己もしくは自己の親族のために本人の財産を利用(担保提供を含む。)し,または利用する予定がある場合
  12. 後見人等候補者が,本人の財産の運用(投資)を目的として申し立てている場合
  13. 後見人等候補者が健康上の問題や多忙などで適正な後見等の事務を行えない,または行うことが難しい場合
  14. 本人について,訴訟・調停・債務整理等の法的手続を予定している場合
  15. 本人の財産状況が不明確であり,専門職による調査を要する場合

これらの条件は、ご本人に関するものと、候補者に関するものに大別されます。

成年被後見人 ご本人に関する条件

上の基準でいうと、2・3・4・7・14番あたり。
ご本人が高額の流動資産をお持ちであったり、専門家が関与すべき特別の事務が予定されている場合などです。

この2番の「高額の流動資産」の基準はというと、2千万円が一定の目安になるようです。

ちなみに先日(平成27年10月末)、当職が関与した申し立て事件で、神戸家裁のある支部の調査官は、「流動資産が1000万円以上の場合には専門職」と説明されていました。

また、申立時には「高額」でなくても、保険金や相続財産、不動産の売却などで、固定資産が流動資産になり、その基準額を超えることが想定されている場合も含まれると思われます。

候補者に関する条件

こちらはご本人ではなく候補者自体の問題。

一言でいうと適正な後見事務が期待できないケースです。この場合は、弁護士・司法書士などが、裁判所の職権により選任されます。

表の1番は、よくある親族間でご本人の(資産の)取り合いなどが起こっているケース。また、成年後見制度の利用に反対する親族がいる場合も、将来争いが起こる可能性が高いため、第三者が適当と判断されます。

5・8・11・12番は、ご本人と後見人の財産の分離が困難なケース。裁判所の目的は、ご本人の保護。不正の可能性があれば、第三者が選任されます。

このような問題がない場合でも、候補者の方の年齢・職業・健康状態・経済状況などにより、後見人として不相当と判断される場合もあります。

後見監督人を選任

上記のような問題がある場合でも、その問題の程度によっては、専門職を「後見監督人」に選任した上、親族後見人が選任されることもあります。

後見監督人が、親族後見人の事務をサポート・チェックし、不正が起こらないように監督することで、身上監護の面での親族後見人の適性を活かす方法です。

この後見監督人を選任するかどうかについても、裁判所が職権で行います。

新しい方法 成年後見制度支援信託

上記のように、ご本人に関する問題点、候補者自身に関する問題点がある場合でも、不正のリスクを減らすことが出来れば、他人である専門職よりも、親族が後見人になることが望ましいはずです。

そこで新たに「成年後見制度支援信託」という制度が創られました。

多額の流動資産がある、専門家が関与すべき特別の事務が予定されている場合など、一旦、専門職後見人を選任し、不動産の売却・相続手続などの比較的難しい後見事務を専門職後見人に行わせます。その上で、ご本人の流動資産を信託銀行に信託し、流動資産を固定(化)資産へ変換。その後、専門職後見人は親族後見人へ後見事務を引き継ぎ、辞任。

このようにすれば、親族後見人が管理する流動資産が減るため、不正のリスクが減少すると考えられて、近年、利用されるケースが増えています。

つまり、この成年後見制度支援信託が利用されれば、親族の方が後見人になることが出来ます。

成年後見制度の候補者についてのまとめ

成年後見制度を利用する際に問題になる、後見人選任の問題。

信託銀行を利用した新たな制度により、親族の方々のご希望が叶う環境が整備され、成年後見制度が使いやすくなりました。

身近になった成年後見制度。当事務所も積極的にサポートします。お気軽にご相談ください。