こんにちは、神戸の司法書士の塚本です。
花粉が飛び交う3月です。司法書士業界的には不動産売買の取引が多くなるシーズン。(のはずですが・・・)
当事務所的には、3月は、離婚に伴う財産分与の相談、ご依頼が多くなります。統計的にも、3月は離婚が1年でいちばん多くなるようです。というわけで、
離婚が決まったので、元夫名義の不動産を私名義に変更したいんですが・・・
というご相談、ご質問について、解説してみたいと思います。
離婚の前に財産分与はできません
「財産分与」は離婚の後!です。
財産分与の名義変更登記は、離婚の届出の後に行います。名義変更登記は最後の仕上げ。
手続の順序としては、
- 離婚の合意
- 離婚条件(慰謝料・養育費・財産分与)の話し合い&書面化
- 離婚の届出
- 財産分与の登記など、給付の履行
と、名義変更登記は最後になります。
いざ離婚届を出してしまったら、元夫が名義変更登記に協力してくれないかも?
などの不安をお持ちの方がおられます。
不安の解消のために、仮登記という方法もあるにはあるのですが、結局のところ、きちんと名義変更を済ませる(仮登記の本登記)には、元夫の協力が不可欠です。
したがって、そのような不安をお持ちの場合には、離婚の話し合いと並行して、名義変更の必要書類を事前に作成・徴収しておくことで対処できます。
つまり、名義変更登記が出来る状況を確保してから離婚の届出をすることが重要です。
不動産の財産分与が決まったら、司法書士に相談し財産分与の名義変更登記が出来る準備をすすめてください。
財産分与の名義変更登記には何を準備したら?
夫名義の不動産を妻名義へ変更する場合で考えると、次のものをご準備下さい。
- 権利証・登記識別情報
- 固定資産税の納税通知書
- 夫の印鑑証明書・実印
- 妻の住民票・お認印
ひとつずつ説明すると、
権利証
権利証、登記識別情報。いずれも不動産を取得した際に、その取得した名義人へ交付される書類です。
その違いは、発行された「時期」。つまり家を買った時代によります。
平成18年ぐらいまでは、権利証。それ以降は、登記識別情報が発行されています(切り替えのタイミングは法務局により異なります)
一般的に「権利証」といいます。が、実際には「権利証」というタイトルではありません。実際にはこんな表紙がついた書類です。大きさはB5。
左記の写真では、「登記権利証書」となっていますが、「登記権利證書」とか、表紙のタイトルは事務所によって様々。
大事なのは中身です。
表紙をめくった中身がこちら。
タイトルは「不動産売渡証書」。和紙で作成されていることが一般的。決まった形式がある訳ではありません。
不動産を買った場合は、こんな書類に、うんぬんかんぬん書かれた後に、売主の名前や買主の名前、不動産の情報が記載されているはず。
で、買主の氏名や不動産の情報などの最後に、この「登記済」のハンコが押されていれば、それがいわゆる「権利証」です。
権利証かどうかは、こちらのハンコを探して下さい。
登記識別情報
長らくは、上記の「権利証」制度でしたが、法律の改正によって、権利証に代わって、左の写真のような書類「登記識別情報通知」が発行、交付されるようになりました。
A4サイズ、不動産1個につき1枚発行されます。
だいたい平成18年以降に不動産を取得された方は、権利証ではなく、こちらの「登記識別情報通知」が交付されています。
ちなみに、その登記識別情報通知も、平成27年頃にモデルチェンジがおこなわれ、現在はこちらのような形式の書類に変更されています。
A4サイズの下部5センチぐらいを折り返した中途半端なサイズです。
固定資産税の納税通知書
毎年、春先に送付される納税通知書。
不動産の名義変更に必要な登録免許税の計算の基礎となる固定資産評価額が記載されています。実際に名義変更にいくらかかるのか?っていうコストも非常に気になる部分。前もって準備して調べておく方が安心です。
神戸市の場合、実際の評価額は2ページ目。
このサンプルはマンションのものなので、土地の価格が高額になっていますが、これはマンションの全部の区分所有者の合計額。
実際には全体の評価額に持分を乗じて算出します。財産分与の場合は、固定資産評価額の2%(100円未満切り捨て)、1000万円であれば登録免許税は20万円になります。
登記義務者(夫)の印鑑証明書
不動産を手放す方の登記申請への意思確認として、実印での押印と印鑑証明書が必要になります。
印鑑証明書は、登記申請の時点で「3ヶ月以内に発行されたもの」との期限があります。せっかく早めに取得していても、登記申請が遅れると(離婚の届出が遅れると)、印鑑証明書の再取得が必要になるケースもあります。
また、この印鑑証明書に記載された住所が、登記記録上の住所(買ったときの住所など)と異なる場合には、元夫の住所を現住所へ変更する登記が必要になります。
タイミングの問題ですが、離婚前に別居し住民登録を変更される場合には、市区役所での住所移転の届出の前に、旧住所の印鑑証明書を取得しておくと、登記費用が抑えられるケースもあります。
こまかい話ですが、とにかく早めに相談頂ければ、余分な出費を防げることもありますので、お早めにご相談ください。
妻の住民票
財産分与登記の申請に、新しい所有者の情報として住民票を添付します。使用期限などはありません。
離婚後も婚姻中の姓をそのまま使用する場合には、問題はありませんが、離婚に際して復氏される(旧姓に戻る)場合には、離婚届を提出し、復氏が反映された(旧姓に戻った)住民票を添付した方が、将来的に都合がいいと思います。
通常の財産分与の登記に必要な書類は、上記の通りです。誤った書類や期限切れの書類では、名義変更が出来ないおそれもあります。
登記の専門家である司法書士へ相談されることをおすすめします。
住宅ローンの支払い中なのですが・・・
このようなご相談も非常に多いケースです。
ローン中の不動産の名義変更のリスクについては、ローン中の不動産の名義変更についての解説記事をご覧頂くとして、今回の解説では、財産分与のタイミングで、妻側の資金で住宅ローンの一括繰上返済をするケースを考えてみます。
夫名義の不動産。住宅ローンの契約者、債務者は元夫であるのが普通です。つまり、ローンの返済義務があるのは元夫。銀行としては、「契約者は元夫です」(奥さんは部外者です)として、妻からの一括繰上返済の相談さえ受け付けないこともあります。
元夫に一括繰上返済資金を預けるのが不安で・・・
元夫へ返済資金を預けて一括繰上返済してもらえればいいのですが、まとまった資金を預けたのに、ローンの返済に充ててもらえなければ大変です。
この「契約者・債務者が元夫のローンを妻が返済できるのか?」という問題があります。
結論としては、銀行・金融機関が門前払いをするなら、勝手に名義変更をしてしまいましょう。
どうせ一括返済するのですから、黙って名義変更したって構いません。名義変更してしまえば、妻は不動産の所有者。法的には担保提供者、物上保証人の立場になります。そうなると、債務者ではない妻も、ローンを返済する正当な権限を持つことになります。返済しないで競売にでもなればたいへんですから当然ですね。
というわけで、銀行・金融機関が「個人情報が・・・」などと門前払いする場合でも、手続を進める方法はあります。迷ってないで行動し、すっきり解決してしまいましょう。
財産分与の名義変更にかかる費用・コストは?
財産分与の登記費用はどれぐらいかかりますか・・・
司法書士の手数料・報酬の部分は、事務量や事務所によります。当事務所の基準では、約4万円~6万円(税別)です。
それ以外に、税金という大きなコストが発生します。
財産分与の対象となる不動産の価格が土地1000万円、建物500万円と仮定すると、
登録免許税
登録免許税は、名義変更登記をする以上、絶対に必要になります。(申請時に納めないと登記してくれませんので)
税額は、固定資産評価額の2パーセント。したがって、土地・建物合計で、30万円。
ちなみに、この税率2パーセントは、財産分与で名義変更する場合も、婚姻中に行う贈与での名義変更の場合も同じ税率。
で、この登記にかかる費用をだれが負担するのですか?と聞かれることもありますが、それは離婚の条件次第。もし決めてなければ、どちらでも構いません。
不動産を取得される側が負担することが一般的ですかね。
不動産取得税
これは不動産を取得する妻側にかかる(可能性のある)税金。取得した時の1回きり。
もともと夫婦で持っていた不動産を、形式的に分ける手続である財産分与。新たに取得する訳ではありませんので、通常は課税されませんが、ケースによって課税の可能性はあります。
課税の可能性は低いですが、かかるとすると、建物は評価額の3パーセント、土地は評価額の2分の1の3パーセントで、計30万円。とはいえ、居住用の建物であれば、軽減措置もありますので、あくまで可能性の話です。
贈与税はかかりませんか?・・・
などの質問もありますが、財産分与では贈与税は掛かりません。
極端な例ですが、婚姻期間3日で、1億円のタワーマンションを財産分与したら、贈与税は掛かりますよ。そんな脱税は使えなくて当然ですよね。
その他、妻には翌年度から固定資産税が、夫側には、譲渡所得税が掛かる可能性があります。
解説のとおり、財産分与の名義変更にかかる費用・コストは、税金が大半です。
この税金というコストは、方法によっては圧縮することも可能な場合があります(あくまで適法にですよ)ので、離婚・財産分与の手続は専門家のアドバイスが重要です。
税金の計算は、婚姻期間、不動産の価格、取得時の価格、築年数、床面積等、税金の計算は複雑な要素が関係しますので、個別具体的な解説は割愛させて頂きます。
財産分与でお困りの奥様からよく頂く質問をまとめてみました。ご参考になれば幸いです。