こんばんは、司法書士の塚本です。

今回は、裁判上の和解によって不動産を取得した方からの登記のご依頼でのお話し。

事件の概要

かんたんな事件の概要は、以下のようなもの。

  1. 借地上の建物の所有者が亡くなった
  2. 相続人全員、その建物はいらない
  3. 地主さんにタダで引き取ってもらいたい

裁判所でまとまった和解の内容は、➌のとおり、借地上の建物を、相手方の相続人から無償で取得するとの内容。つまり、建物の所有権は、所有者(元の借主)⇒相続人⇒依頼者(地主さん)へと移転しているのです。

したがって、和解の内容を実現するには、一旦、建物の相続登記が必要なんです。

そもそも、相続登記は相続人が申請するもの。ですが今回のケースでは、裁判所でまとまった和解の実現のためなので、ご依頼者さんが相続人に代わって相続登記を申請(代位申請)することができます。また、代位する正当な権利があれば、相続登記に必要な戸籍や住民票なども取得することもできます。

つまり、相手方(相続人)の協力なしで、相続登記手続を進めることができるんです。

てことで、相続登記の準備を進めると・・・

外国在住の方の住所証明書

裁判所でつくられた和解調書を眺めてみると、相続人の中に、中国在住の方を発見。

海外在住の方の住所証明書を職権で取得できるか?

日本国籍の方であっても、中国に在住の方の住民票は、日本の役所では発行されません。

【転出先:中国】と記載された住民票の除票となってしまいます。住民票に代わる書類は、居住している国の日本領事館などで発行される在留証明書になります。

このようなケースでは、正当な権利がある方でも、日本の役所では住民票を取得することができませんし、司法書士などが職権を利用しても、在留証明書どころか住民票さえ取得することはできません。

とは言っても、中国に在住されている方、まして裁判の相手だった方に「相続登記に必要なので、お近くの日本領事館へ出向いて在留証明書を取得して下さい」な~んてお願いは出来るはずありません。

仕方なく、住所証明書が取得不可能(困難)な事情を管轄法務局へ相談してみたところ・・・

本籍地を住所地として登記

管轄法務局からの回答は、

  • 本籍地を住所として登記でオッケー
  • 戸籍の附票を添付してね(日本在住じゃないことの証明)

寛大な判断ありがとうございました。行方不明って訳ではありませんが、この先例が適用されたのでしょうかね?

参考先例 昭和32年6月27日 民事甲1230

共同相続人の1人の住所証明書添付不能の場合の措置

相続登記を申請するときに行方不明の共同相続人があるときは、その者の最後の住所を証する書面を提出し、もしそれが提出不能のときはその者の戸籍の附票に住所の記載がない旨の証明書を添付させ、本籍を住所として登記して差し支えない。

今回のケースは、相続登記と同時に(連件で)ご依頼人名義への登記も申請するので、外国の住所に代えて本籍地を住所とした方の名義となるのは、ほんの一瞬。問題は起こる可能性は限りなく低いと思われます。とはいえ、スムーズで現実的な取り扱いを認めて頂きありがとうございました。