相続登記のお話しです。

相続登記とは、ざっくり説明すると、お亡くなりになられた方(被相続人)が所有していた不動産の名義を、相続人の名義へと変更すること。

つまり、お亡くなりになられた方が不動産を所有していたこと、その証明が必要です。

当たり前の話なのですが、これが結構問題になります。

前提として

不動産の登記では、住所と氏名で、所有者を特定しています。(自然人の場合)
本籍地や生年月日などの情報は、原則として登記されません。

ある方がお亡くなりになったことや、その相続人が誰であるか、などの情報は戸籍によって証明します。
その亡くなった方の住所に関する情報は、亡くなったことが反映された、本籍地の記載のある住民票で証明します。
氏名・本籍地・生年月日が一致した「戸籍と住民票」の2つの情報のあわせ技で、被相続人の(最後の)住所が特定されます。

被相続人の住所が変更している

よくあるケースが、不動産を取得(購入など)した後、住所を変更している場合。

そうすると、登記記録の住所と最後の住所が違うため、不動産の所有者が亡くなったことにはなりません。

そこで、お亡くなりになった際の住所(最後の住所)から、登記記録上の住所まで、すべての住所変更の経緯を、住民票や戸籍の附票などでさかのぼって証明します。このように住民票などで住所が証明できれば、問題ありません。(証明書代がかかりますが)
ちなみに、司法書士は、このように住所変更の経緯の証明を、「住所の沿革をつける」などといいます。

しかし、住民票や戸籍の附票には保存期間があるため、一定の期間を経過した証明書は発行されません。

そうすると、「お亡くなりになられた方が不動産を所有していたことの証明」が、住民票などの公的な文書での証明は不可能です。

このようなケースでは、「上申書」といわれる書面を提出することで、証明できない部分を補完することになります。

一般的には、その不動産の権利証(通常、所有者が持っているもの)や固定資産税の納税通知書(通常、所有者に課税されます)と、その「上申書」によって相続登記は受理される扱いです。

ちなみに法務局が提出を求める「上申書」には、以下のような内容を記載します。

万一、この登記の完了により問題が発生した場合、私が責任をもって処理解決し、御庁に対して一切御迷惑はかけません。
ここに、登記済証・納税通知書・印鑑証明書を添付して申請致しますので、本申請を受理していただきます様、よろしくお願い申し上げます。

お上はエラいんです。

どこまで証明が必要か?

住民票は戸籍の附票などで証明を試みますが、どうしても証明できないケースがあり、そのようなケースは「上申書で対応」と説明しました。
通常はそれで受理されるのですが、法務局によっては、「どうしても証明出来ないことを証明しろ」と求めるケースがあります。

まず、登記記録上の住所に現在住んでいないことの証明として「不在住証明書」
その昔は、住所の代わりに本籍地で登記されていたこともあるため、登記記録の住所地に本籍地がないことの証明として「不在籍証明書」
途中、住民票などの証明書が、破棄されて発行されない場合には、「破棄証明書」
などなどです。

結局は、絶対に完成しない、ピースの足りないジグソーパズルのようなものですが、どこまでの証明が必要かといえば、ケースバイケース、運次第です。でしたが、ようやく取り扱いが改善されました。

取扱いが改善されました!(追記!)

平成29年3月23日法務省民二第174号という通達によって、こんな曖昧なやり方が変更されました。

住⺠票の写し、⼾籍の附票の写し⼜は所有権に関する被相続⼈名義の登記済証の提供があれば、不在籍証明書及び不在住証明書など他の添付情報の提供を求めることなく被相続⼈の同⼀性を確認することができ、当該申請に係る登記をすることができると考えますが、いささか疑義がありますので照会します。

回答⇒貴⾒のとおり取り扱われて差し⽀えありません。

となりました。いままでは、住民票や戸籍の附票で、被相続人の同一性が証明できない場合、権利証や納税通知書、上申書(印鑑証明書付)、不在住・不在籍証明書などなど、

何でもかんでも出せるもん出して

って取り扱いでしたが、所有権に関する被相続⼈名義の登記済証を提出すれば、上申書などその他の書類が要らないってことになりました。

権利証がない場合はどうしますの?って疑問も残りますが、とりあえず、画一的なルールが示されたので、仕事がやりやすくなりました。

被相続人の住所が誤っているケース

住所が変わることは、よくあるケース。この間依頼を頂いた相続登記のケースでは、そもそも不動産を取得した際の住所に誤りがありました。

具体的には、こんな内容でした。

登記記録では、

権利部(甲区)(所有権に関する事項)
順位番号 登記の目的 受付年月日・受付番号 権利者その他の事項
所有権移転 平成5年7月7日
第7777号
原因 平成5年6月6日売買
所有者 神戸市西区△△町△丁目△番△号
塚本 隆之

戸籍の附票では、

  住            所 住所を定めた年月日
神戸市西区△△町△丁目△番△号 昭和60年1月1日
神戸市中央区御幸通6丁目1番15号 平成5年5月5日

不動産購入の登記した時には、すでに住所を変更しているため、相続登記以外では「住所更正登記」が必要です。

が、相続登記の場合には、以下の先例があるため、更正登記は行いません。

被相続人の氏名等が登記記録と相違する場合は、同一人であることを証する情報を提供すれば、氏名等の変更又は更正の登記を省略して、相続登記をすることができる。

「同一人であることを証する情報」って、何ですか?あいまいすぎませんか?

まあ一般的に考えれば、「古い住民票を使って登記しちゃったんだろう」と考えられるので、上の戸籍の附票が「同一人であることを証する情報」だと考えられますが、前項の「どこまで証明が必要か?」のとおり、あとでなんくせをつけられると指摘されると「上申書」などの対応が大変ですので、管轄法務局へ「ね・ん・の・た・め」確認。

管轄法務局は、「まあ、わかるからええでしょう」との回答でした。

ちなみにプライベートでは、こんなに慎重でガチガチな人間ではありませんので・・・