こんばんは!神戸の司法書士の塚本です。
今回のお話しは、渉外(外国籍の方の関係する)相続登記について。過去に中国籍の方の相続登記の記事を2件ほど書いていますので、今回が第3弾となります。
過去の記事はこちら 中国籍の方の相続登記 中国籍の方の相続登記 PART2
今回のケースでは、いろいろ調べて悩んでみましたが、正解にはたどりついていないような気が・・・。その経過を備忘録的に記しておきます。(守秘義務の関係上、内容は一部改変しておりますのでご了承下さい。)
ご依頼の経緯
お電話での相続登記のご相談。日本在住の日本国籍の方からです。
お話しを伺ってみると、相続登記をご近所の司法書士に頼んだところ、被相続人(日本国籍の女性)がその昔、中国籍の方と婚姻したことが判明したそうで、その依頼した司法書士さんは外国がらみの相続登記の経験がないから「出来ない、別の司法書士を探して」って言われたそうで、弊所に連絡頂いたようです。
以前に書いた記事を読まれたのでしょうか?特に渉外(海外の)事件を得意にしている訳ではないのですが、弊所にご連絡を頂きました。まあ、中国籍ならできるだろうってことで、事務所へお越し頂きました。
当職の「できるだろう」の根拠は、中国籍の方の場合、現在、相続に関する証明書は発行されていません。そのことは法務局もご存じな訳です。したがって、現在発行可能な、入手可能な資料を揃えて申請すれば、仕方なく?やむを得ず?相続登記は受理される扱いになっているため。
で、ご来所頂き、面談のあと、相続登記を受託しました。ご依頼ありがとうございます。
令和4年現在、中国籍の方の相続関係を証明する書類(親族関係公証書・相続証明書)は、「受付停止中」(神戸華僑総会HP)となっていたり、「廃止されました」(東京華僑総会HP)と案内されていたり、実情はよく分かりません。が、現在、発行されていない、入手不可能であることは間違いありません。
歴史の勉強?
受託した後、さっそく戸籍等の資料を集め確認すると、被相続人の方、山田花子さん(仮名)は、昭和22年に中華民国の山東省出身の方と婚姻して、日本国籍を離脱、無国籍となり、その後、死別したため、昭和29年に日本へ帰化されていました。
エッ?中華民国?無国籍?中国籍じゃないじゃん!
中国籍だったら入手可能なものを出せばOKよねって、思い込んでいましたが「無国籍」だと。どうやら雲行きが怪しくなってきました。
そうなると、私が収集すべき(法務局へ提出したい)ものは、山田花子さんが日本国籍を離脱していた期間の相続関係を証明する資料ってことですが、どこで入手できるんでしょうか?
中華民国って台湾のことでしたっけ?無国籍ってどういうこと?中国っていつできたっけ?国民党?張作霖?蒋介石?毛沢東?とチンプンカンプン(理系なので歴史はまったくです)
日本でいうところの戦前、戦後のややこしい時期ですが、歴史年表的には、
- 1895年4月17日 台湾で日本統治開始
- 1912年2月12日 中華民国政府が中国を代表
- 1945年10月25日 台湾の日本統治終了
- 1949年10月1日 中華人民共和国建国
- 1949年12月7日 中華民国政府台湾島へ移転
となるようで、中国大陸内での内戦などもありかなり複雑。行政権の主体、行政地域の変遷などはよくわかりません。今回の事案は、年表上では、③の後に中華民国ご出身の方と婚姻し(中華人民共和国はまだ存在しない)、④の後で、日本国籍に復帰されています。その当時の資料なんてどこにあるの?
戸籍制度のある台湾なら、当時の戸籍が発行されるかもしれないし、中華人民共和国ならそもそも戸籍は無いでしょうし、仮に資料があっても現在は相続関係の証明書は発行されませんし。可能性があるとすれば、台湾だけです。
ところが、山田花子さんのご主人さんの本籍地は、中華民国の山東省。そこは現在、中華人民共和国の領土ですよね。
経験者へ取材
私の経験の範囲を超えてしまいましたが、投げ出すわけにはいきません!てことで、台湾戸籍の収集代行業者さんや、先輩の司法書士さんなどへ取材してみたところ、その見解は、
- 資料は存在する(台湾で取得できる可能性がある)
- 資料は存在しない(が、台湾にて資料が存在しない旨の証明書が発行される)
- 資料は存在しない(時期的な問題)
- 資料は存在しない(地理的な問題(本籍地が中国大陸))
の4つの説。ちなみに、②の資料が存在しない旨の証明を取得するのに20万円かかるってことでした。よ~く検討した結果、④説が有力との結論に至り(強引に導いて)、管轄法務局へ相談。
法務局の回答は
入手可能な資料をつけて、法務局へ相談したところ、
- 戸籍(日本国籍の時のもの)
- 外国人登録原票(無国籍の時のもの)
- 他に相続人がいない旨の相続人全員からの上申書(印鑑証明書付)
の3点を提出してくださいってことで、無事、一件落着。結果的に、余分なコストもかからず、時間も節約できまして、ご依頼人さんにもよろこんで頂けました。
備忘録、独り言
そもそも、中国籍の方であれば、他に相続人がいない旨の相続人全員からの上申書(印鑑証明書付)しか、提出できる資料が存在しないこともある訳で、それでOKなんですよ。一方、台湾籍(無国籍)の方の場合には、別途資料がいるってのもなんか不公平。
わざわざ20万円かけて「相続関係の資料は発行されません」って台湾の役所の書類を取得し、日本語に訳して提出しても、「あっそう、資料ないのね」ってぐらいの扱いでしょうし。その資料が、他に相続人がいないことの蓋然性を高める訳でもありませんし。
ご依頼のおかげで、いろいろと調べ、悩んでみましたが、結局、大陸に中華民国があった時代の戸籍の存否やその発行の可否など、本質的な結論には至りませんでした。
まあ、ご依頼人さんに喜んで頂けたのでOKとしましょう。