こんばんは。神戸の司法書士の塚本です。

今回のご依頼は、中国籍から日本に帰化した方の相続登記のお話し。(守秘義務の関係上、多少デフォルメしておりますのでご了承ください。)

事案の概要

  1. 中国でお生まれになり
  2. 成人したあとに日本へ来日し
  3. 日本で中国籍の方どうしで結婚し
  4. 夫婦揃って日本に帰化し
  5. ご主人さんがご自宅不動産を購入し
  6. ご主人がお亡くなりになった

帰化されていますが日本人の相続ですので、日本法が適用されます。お子様はおらず、ご両親は既に他界されているので、相続人は奥さんとご兄弟の方3名の計4名です。

ご兄弟は、中国籍の方2名と、アメリカ国籍を取得された方が1名。ご兄弟全員は、奥様が相続することに同意しておられるとのこと。また、誰のアドバイスかは不明なのですが、奥様が相続する旨を記載した「STATEMENT」と題された海外で作成されたと思われる書類を既にご準備されていました。

外国籍と日本籍の方との違い

外国籍の方が関連する相続登記で、日本籍の方の相続登記の違いは「相続人を確定させること」と「遺産分割協議の内容の真正担保」の方法です。

日本国籍の方の場合、前者は戸籍謄本で、後者は実印+印鑑証明書で証明しますが、外国籍の方の場合、戸籍制度が無いことが多く、印鑑証明書の制度もほとんどありません。

したがって、日本国籍の方とは別の方法で、相続人の確定、遺産分割協議の内容の真正を担保する必要があります。

帰化前の情報も必要です

今回のケース、被相続人は日本国籍の方ですが、日本へ帰化する前の相続関係(家族関係)については、日本の戸籍には記載されません。来日~帰化までについては、外国人登録原票が唯一の資料で、それ以前については、中国での親族関係証明書の発行が停止されている現状では、何の資料もありません。

相続人を確定させること

ご依頼人さんがご準備されていた「STATEMENT」なる書面の形式は、署名者(ご兄弟)の署名、拇印だけが押された書類、アメリカの公証人の公印らしきもの押された書類、文書と公証人らしき人が作成した文書がホチキス止めされ契印等がなされていない書類など、日本の役所では考えられないようなシロモノ。とても日本の公的な手続には使えないよな~ってもの。

また「STATEMENT」に記載された文面は、以下の通りで、

  • 署名者の住所、氏名。
  • 署名者の兄弟が死亡したこと。
  • 死亡した兄弟には遺言がないこと。
  • 遺産を自発的に放棄すること。

これら以外には、具体的に相続人が誰と誰であるのかなどの記載はありません。

被相続人の両親が亡くなっているのかいないのか?他に兄弟がいないのか?現在の妻以前に婚姻して子をもうけていないのか?など、「STATEMENT」には、相続関係については、何の記載もありませんでした。

遺産分割協議の内容

「STATEMENT」には、遺産を自発的に放棄する旨が記載されています。兄弟全員が遺産を自発的に放棄すれば、奥さんがすべて相続する結果になることは明らか。

とも思われますが、そもそも前項のとおり、兄弟が相続人になるのかも不確定であり、「STATEMENT」を作成したのが本当にその兄弟であるのかも、実印(印鑑証明書付)が押されている訳でもなく、拇印では何の証明にもならず、出所不明の外国で作成された文書だけでは、遺産分割協議に関する相続人の意思の確認には足りません。

法務局へ照会

とは言え、コロナ禍の中、せっかく事前に準備されたいた「STATEMENT」を、私ごときの判断で無下にする訳にも行かず、(ダメもとで)法務局へ照会してみました。

が、やはり、相続人を戸籍で確定できない以上、相続人全員から相続人を特定した書面と、遺産分割協議書、この2点を相続人の本国の公証制度によって証明してください。との回答でした。

つまり、米国籍の方の場合は、米国の公証人による「AFFIDAVIT(宣誓供述書)」、中国籍の方の場合は「公証書」を作成してもらうってことに。

当方でこれらの書面の原案を作成し、相続人の方へ宣誓供述書の作成をお願いし、何とか一件落着です。

中国公証書(参考)

参考までに、中国の公証書とはこのようなもの。

中国公証書の表紙
表紙

氏名、生年月日、住所、相続関係、遺産分割の内容が記載された中国語の文書と日本語訳、あと、証明事項を記載した下記の書類がきちんと綴じられています。

中国公証書の内容

で、公証されている内容っていうのは、公証人の面前で本人が署名したことだけ。相続関係や遺産分割の内容については証明しません!ってものです。そら、日本語の書類や、日本人の相続関係なんて中国の公証人がわかるはずありませんので。

ややこしい手続は専門家へ相談ください

せっかく、前もってご準備頂いた「STATEMENT」だったのですが、結果は「使えない」ってことに。

「餅は餅屋」。登記に関することは、事前に司法書士へ相談頂いた方が、結局のところコスパがいいと思いますよ!