ある方からのご相談。
親から相続した土地と建物。調べてみると、親のものじゃなかった!って話です。正確には、
- お父さんのものだと思っていたのが、他人の名義のままだった。
- お父さんが住み始めたのは、戦後まだ間もない昭和20年代。
昭和20年代に行われた不動産の取引を証明するのは非常に困難。
そこで、このようなケースでは、「時効取得」の制度を利用し、その不動産を取得して、名義を変更する方法が考えられます。
ちなみに「時効取得」とは、10年または20年間、所有の意思を持って占有を継続することで、その対象物が自分のものになってしまうという制度。
とはいえ、長期間占有を継続すればオッケー、ではなく、相手方に認めさせるか、裁判所で認めてもらう必要があります。
もちろん、借りていたら、所有の意思はありませんよ。ずっと住んでる借家が自分のものになるわけではありませんので!
詳しい事情をお伺いすると、今回のケースでは「時効取得」の裁判で解決を試みることになりました。
相手方の行方がわかりません!
まあ、とりあえず、裁判を始めるには相手方の調査する必要があります。裁判を始めるには、相手方を裁判所に呼んでこないとダメなんです。
そこで、唯一の手がかりである、不動産の登記事項証明書の所有者欄を確認すると、
「昭和2◎年△月◎日売買 所有者 神戸市葺合区◎◎町△△番地 ◎本 △子」となっています。
調査開始!
そんな住所は現存しませんので、戸籍の調査を行い、結果、該当無しで、不在籍証明書をGETしました。
さらに、そんな住所は現存しませんので、住居表示実施を区役所で調査しましたが、住居表示が実施された時にはすでに不在になっていたため、不在住証明書は発行しないって扱いで、不在住証明書はGETならず!
で現実、その住所はどこやねん?てことで、神戸中央図書館にて、古い住宅地図のコピーGET!し、おおまかな場所を把握した上、現在の住宅地図から住居表示を調査。現地へ行ってみても、そんな家はありませんし、そんな人は住んでいません。で、現地の様子を写真撮影!
ここまで調べて相手方がどこに行ったかわからない場合には、「公示送達」の制度を利用して、裁判を進めます。
ちなみに「公示送達」とは、相手方を知ることができない場合や、相手方の住所・居所がわからないときなどに、法律上、相手に届いたことにする手続きのこと。他に相手方に知らせる手段がありませ~んて場合に、裁判所へ呼出状を張り出すことで、結果、裁判が出来ることになります。
もちろん、裁判所に呼ばれてもないのに、知らない間に裁判に負けていた!となったら大変なので、公示送達の要件は厳しいです。
公示送達の調査報告
これらの調査結果を添付して、提訴!
してみましたが、すんなりと公示送達を認めてくれるほど、裁判所は甘くはありませんでした。
書類上、要件は揃っていると思うんですけど?
昭和20年代の話ですけど?
60年以上前の話ですけど?
それでも聞き込みが必要ですか?
と粘りましたが、書記官さんには根負けです。現地聞き込み調査の開始です。行けばいいんでしょ。
近所の人に不審者扱いされながら「そんな昔のこと知らんがな!」と言われてくればいいんですかね~
まさに奇跡!
わたし、おっさん司法書士が昼間っから1人で住宅街をウロウロしていると、本当にケーサツへ通報されかねない世の中なので、事務所の若槻司法書士(女性)と一緒に出陣。
そもそもダメもとのつもり。
だだ下がりのモチベーション。(経験上、なかなか協力してくれる人っていないんですよ。私ら警察じゃないんですから。ドラマで弁護士していた松潤のようにはいきませんから)
古い住宅地図とにらめっこしながら、その当時からお住まいの方を探し、ウロウロしていると、遠くで若槻司法書士が、誰かと立ち話。
GETしてくれました。
戦後ずっとこの界隈にお住まいの80歳のお姉様。奇跡です。詳しい事情をお伺いさせて頂きありがとうございました。
という訳で、詳細な報告書を作成し、裁判所へ提出。無事、公示送達で裁判が開始、結果、請求認容判決を頂けました。
聞き込み調査にご協力頂きました方々、ありがとうございました。お礼申し上げます。